物損事故って何?人身事故との違いや事故後の対応について徹底解説!

  • 作成日

    作成日

    2023/05/24

  • 更新日

    更新日

    2023/12/27

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目次

物損事故って何?人身事故との違いや事故後の対応について徹底解説!
「ケガ人はいないけど、カーブを曲がり切れずにガードレールにぶつけてしまった」
「ハンドル操作を誤って塀にぶつかってしまったけど、ケガはしなかった」

このような物損事故を起こしてしまった場合、どのように対応すればよいのでしょうか?また、人身事故との違いはあるのでしょうか。

このコラムでは、物損事故と人身事故の違いや、物損事故で加害者に請求できる可能性がある賠償金の項目、適切な事故後の対応などについて解説します。

事故後の誤った対応で損をしないためにも、物損事故について理解を深めていきましょう。

物損事故とは?

物損事故
「物損事故」とは、交通事故により物(自動車など)が傷ついたり壊れたりして損害が発生したが、ケガ人(死傷者)はいない交通事故のことです。警察では、「物損事故」ではなく「物件事故」と呼ばれることもあります。

一方、交通事故によりケガ人が生じて人的な損害が発生した場合には、「人身事故」といいます。

物損事故と人身事故の6つの違い

物損事故と人身事故の主な違いは、次のとおりです。
人身事故のケースでは、道路交通法や自動車運転処罰法により、刑事処分を受けることがあります。

一方、通常の物損事故のケースでは、人身事故と異なり、刑事処分の対象とはなりません。また、行政処分の対象にもなりません。

※ たとえば自動車同士の交通事故で、双方に過失があって損害が発生した場合には、お互いに損害賠償を請求できます。人身事故の場合には、「こちらの請求額からあなたの請求額分を差し引いた(相殺した)額を請求する」ということはできませんが、物損事故の場合には相殺できることがあります。

物損事故で請求できる賠償金の項目

物損事故の場合、加害者がいれば、加害者に対して物的損害に関わる賠償金を請求できます。

物損事故で被害者が請求できる可能性がある賠償金の項目は、次のとおりです。
物損事故 人身事故
自賠責保険 適用されない 適用される
行政処分(免許の点数) 加算されない 加算される
刑事処分 対象とならない 対象となる
慰謝料の請求 原則不可
損害賠償請求権の消滅時効(短期) 被害者が損害および加害者を知った時から3年(民法第724条1号) 被害者が損害および加害者を知った時から5年(民法第724条の2)
損害賠償請求権を受働債権とする相殺(※) 悪意のある場合は可(民法第509条) 不可(民法第509条2号)
賠償金の項目 内容
車両の修理費 交通故で車両が破損した場合に請求できます。
ただし、修理費用は、原則としてその車両の時価額が限度となります。修理費用が車両の時価額を上回っている場合、車両の時価額の限度でしか支払いを受けることはできません。
また、部分塗装で足りるところを全体塗装する、板金修理で足りるところを部品総取り換えするなど、損害を回復するのに相当とされる程度を超える過剰な修理費用については支払われません。
代車使用料 交通車両が走行不可能となった場合、修理期間や車購入までの間に使用した代車の費用を請求できます。
代車使用料は相当期間に限って認められます(修理の場合は1~2週間程度、買い替えの場合はおおむね1ヵ月程度)。
車両の評価損 車両を修理して元の状態に戻したとしても、交通事故がなかった場合の車両に比べて、評価される価格は低くなってしまいます。
故車」は一般的に査定額が低くなり、市場価値が減少するため、これを「評価損」として請求できる場合があります。
休車損害 営業車(タクシーやバス)が破損した場合、相当な修理期間または買い替え期間の間、故がなければ生じたであろう収入を損害として請求できます。
損害額は、当該車両を使用した稼働状況、収入、代替車両の有無などの事情を考慮して算定されます。
レッカー代 破損により自走が困難で、移送のためにレッカー車が必要となった場合には、レッカー代を請求できる可能性があります。
家屋・設備の損害 物損故で家屋や設備が破損した場合には、修理のための相当な工費用を損害として請求できます
店舗に車が突っ込んで営業ができなくなった場合には、店舗の工事費用のほか、相当な休業期間について営業損害が認められます。
積荷その他の損害 のような場合、その損害を請求できます。
・トラックに積まれていた荷物が破損した

・車両内にあった価値のある物が破損した
・身につ
けていた衣服や眼鏡などの携行品が破損した
なお、破損が修復可能であれば修復にかかった費用、修復不可能であれば事故当時の評価額が支払われることになります。
車両の買替代金 車両が大破した場合、修理費ではなく、買替代金を請求することになるケースがあります。
ただし、実際にかかった買替費用が請求できるわけではなく、交通
故直前の車両の価額が限になるでしょう。
加害者がいない単独事故の場合には、自分で損害を負担する必要があります。

ですが、車両保険などに加入していれば保険金を受け取れる場合もあるため、ご自身が加入している保険の内容を確認しましょう。

ただし、保険を利用すると等級のランクが下がり、次年度からの保険料が高くなることがあります。そのため、保険を利用するかどうかは、保険料への影響も考慮して判断するとよいでしょう。

詳しくは、「交通事故で請求できる損害」について解説したページも参考にしてみてください。

物損事故の被害にあったときの対応

物損事故の被害にあったときの対応
物損事故が起きた場合にとるべき対応は次のとおりです。
  1. 安全を確保して警察に連絡する

  2. 相手の連絡先を聞く

  3. 目撃者の連絡先を聞く

  4. あなたが加入する保険会社に連絡する

  5. 損害がわかる資料を集める

  6. 示談交渉をする

時系列に従って詳しく解説します。

(1)安全を確保して警察に連絡する

安全を確保して警察へ連絡する
まずはただちに安全な場所に車を停止して、ケガの有無を確認しましょう。
また、交通事故によって道路に積荷が散乱するなどしていたら、片づける必要があります。片づけられない場合には、発煙筒や三角表示板などで周囲に危険を知らせてください(道路交通法第72条1項前段、危険防止等措置義務)。

二次的な交通事故の発生を防ぐ措置を講じたら、ただちに警察に連絡し、事故の状況を説明します(道路交通法72条第1項後段、警察への報告義務)。

これらの義務に違反した場合、次のような罰則が定められているため、対応を怠らないよう注意しましょう。
※1と2の行為が両方認められる場合、重いほうの1の刑罰によります。

なお、2022年6月の刑法改正によって、懲役刑と禁錮刑は廃止され、拘禁刑に一本化されました。改正刑法は2025年ごろまでに施行される予定です。

(2)相手の連絡先(住所・氏名・電話番号など)を聞く

交通事故の相手がいる場合、相手の連絡先(住所・氏名・電話番号など)を聞いておくようにしましょう。
運転免許証を保有・持参しているはずですから、表面と裏面を写真に撮らせてもらうとよいでしょう。

(3)目撃者の連絡先(住所・氏名・電話番号など)を聞く

交通事故の目撃者がいる場合には、目撃者の連絡先(住所・氏名・電話番号など)を聞いておきましょう。
交通事故の目撃者の証言が示談交渉などで重要となるケースもあります。

(4)あなたが加入する保険会社に連絡する

自身が契約している保険会社にも、できるだけ早く連絡し、交通事故の被害にあったことを報告します。
一般的には、契約上、交通事故の発生から60日以内に連絡が必要とされていることが多いようです。

交通事故は、当事者双方に過失があるケースが数多くあります。
当事者双方に過失があり、加害者にも損害が発生している場合には、被害者であっても、加害者に発生した損害の過失割合分について賠償する責任があります。
その場合、被害者も自分の保険を利用する必要が生じるかもしないため、事故後できるだけ早く連絡しましょう。

(5)損害がわかる資料を集める

主に必要な書類は、以下のとおりです。
  • 物件事故報告書
  • 車両の修理見積書
  • 買替車両の購入見積書など
ただし、損害の内容により異なります。レッカー費用などが発生している場合には、保険会社に忘れずに伝えたうえで、領収書などを提出しましょう。

(6)示談交渉

加害者の保険会社と話合い、損害額・過失割合などについて交渉して和解を目指します(示談交渉)。

示談が成立すれば、加害者の保険会社もしくは加害者本人から示談金が支払われます。

過失割合や損害額などで折り合いがつかず、交渉がまとまらない場合には、調停や訴訟など裁判所での手続を利用して解決を図ることもあります。

人身事故を物損事故として処理するデメリット

交通事故の被害にあい、ケガをしてしまっても、「大事にしたくない」「加害者も悪い人ではなさそうだからかわいそうだ」など、「物損事故」としてもよいのではないかと考えるかもしれません。 しかし、ケガや痛みがある場合には、警察官にその旨を伝え、人身事故として処理してもらった方がよいこともあります。

実際は人身事故であるにもかかわらず、物損事故として扱われてしまうと、正確な事故の状況がわからなくなるなどのリスクがあるからです。

正確な交通事故の状況がわからなくなるとどうなる?

交通事故の事故状況がわからなくなると、争いが生じるケースが多くあります。

たとえば、加害者側の車が飛び出してきて交通事故になったにもかかわらず、加害者側は一時停止をしたと主張しているような場合です。
主張
通常、交通事故の状況について争いが生じた場合には、実況見分調書(※)を根拠に事故状況を明らかにしていきます。

しかし、物損事故ではほとんどの場合この実況見分調書が作成されず、簡易な物件事故報告書が作成されるだけです。

物件事故報告書は一般的に、交通事故の状況を明らかにする力が弱いとされています。

そのため、交通事故の状況に争いが生じた場合、被害者側の主張が認められづらくなる可能性があります。

※事故直後に警察官が事故状況の詳細を確認・調査して作成する書類のこと。

物損事故を人身事故へ切り替えるには

事故直後ではなく、事故から数日後に痛みやしびれなどの症状が現れた場合、物損事故から人身事故に切り替えられます。
切り替えるための手順は、次のとおりです。

  1. 病院で診断書をもらう

  2. 警察署に人身事故に切り替えたい旨を伝える

  3. 実況見分や事情聴取などが行われる

それぞれ説明します。

(1)病院で診断書をもらう

病院

人身事故に切り替えるためには、交通事故によりケガをしたことを医師に判断してもらう必要があります。
自分の症状に適した病院・科(むち打ち症状であれば整形外科、頭痛であれば脳神経外科・神経内科など)を受診し、診察を受け、ケガの診断書を発行してもらいましょう。
診察の際には、「交通事故日、交通事故の内容、いつから痛むか、どこが痛むか」などを説明するようにします。

なお、加害者側の保険会社にも、事前に病院に行くことと、人身事故として対応してもらいたい旨を伝えておきましょう。

(2)警察署に人身事故に切り替えたい旨を伝える

警察
診断書が発行されたら、交通事故の現場を管轄している警察署に対しても、人身事故として対応してもらいたいと伝えます。
なるべく事前に電話連絡をして、必要な書類や窓口・担当者を確認し、訪れる日時の約束をするとよいでしょう。

なお、痛みなどの症状が現れたら、すぐに病院を受診して診断書を入手し、警察署に伝えるようにしてください。
事故が起きてしばらく経ってから切り替えを希望した場合、「本当にケガをしたのか」「交通事故と無関係のケガではないか」などと疑われることもあるからです。

(3)実況見分や事情聴取などが行われる

警察により、実況見分や当事者に対する事情聴取などが行われます。
実況見分は、当事者本人が警察官と交通事故の現場を訪れて行います。
警察官に対しては、記憶のとおり正確に交通事故の状況を伝えるようにしましょう。

【まとめ】物損事故とは死傷者のいない交通事故

「物損事故」とは、交通事故により物が壊れるなどの物的な損害が発生したものの、死傷者はおらず人的な損害は発生していない交通事故のことです。

人身事故とは異なり、物損事故では通常、刑事処分や行政処分の対象にはなりません。

しかし、実際には人身事故であるのに物損事故として処理された場合、正確な事故の状況がわからないことが原因で、自分の主張が認められづらくなるなどのデメリットが生じる可能性があります。

そのため、いったんは物損事故として処理された場合であっても、人身事故へと切り替えたほうがいいケースも存在します。

物損事故で加害者側の保険会社と交渉しているけど話合いが進まないとお困りの方や、人身事故への切り替えをした方がいいのかお悩みの方は、物損事故を含む交通事故について取り扱っている弁護士に相談するとよいでしょう。

なお、アディーレでは、人身事故の被害にあわれた方のご相談をお受けしております。人身事故にあわれ、対応にお困りの方がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。

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この記事の監修弁護士

岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。

中西 博亮の顔写真
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1.危険防止等措置義務違反 1年以下の懲役または10万円以下の罰金
(道路交通法第117条の5第1号)
2.警察官への報告義務違反 3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金
(道路交通法第119条1項第17号)