この記事のポイント
・親権者をどちらにするかは実親同士の話合いや家庭裁判所での法的手続きで決める
・父親が親権を得るには、日頃から子どもの面倒を見ていることや離婚後も子どもに継続して安定した生活を提供できることが大切
・いったん親権者が決まった場合、離婚後の親権者変更はなかなか難しい
離婚をするときに、子どもの親権を父親と母親、どちらが持つのかについて争うケースが多くあります。
「育ち盛りのかわいい子どもたちを手放すなど考えられない」
「どうしても子どもの親権が欲しい」
そう思っているお父さんもいることと思います。
しかし、一般論として夫婦が離婚をした場合、父親が親権を得られる可能性は低いといわれています。
ですが、可能性が無いわけではありません。
父親が親権を得るための交渉ポイントを押さえておくことで、親権を得られる可能性を高めることも可能なのです。
本記事では離婚時に父親が親権を得るための3つの交渉ポイントについて解説します。
「親権」とは?
従来、子が未成年の場合は、必ず、離婚後は父母どちらかを親権者(単独親権者)と定めなればなりませんでした。
そして、2026年4月施行の改正民法により、施行後の離婚の場合には、離婚後の共同親権も選択できるようになっています。
しかし、離婚後に共同親権とするのか単独親権とするのか、単独親権にするとしてどちらが親権者となるのかについては、争いになることもあるでしょう。
まず「親権」とはどのようなものなのかについて知らなければ交渉どころではありません。
以下、親権交渉を進めるうえで知っておきたい基本事項を説明します。
(1)「親権」は、子どもの福祉を守るための親の権利義務
「親権」とは、未成年の子を育て、財産を管理し、子どもの法律行為を代理する権利のことです。
親権者には、未成年の子どもを養育する権利と義務があるのです(民法第818条)。
「親権」は「権利」であるように読めますが、社会的に未熟な子どもを保護して、子どもの精神的・肉体的な成長を図っていかなければならない親の「義務」という側面が強いものです。
一般に、権利は放棄することも可能ですが、義務は逃れることはできません。
「親権」を得るのであれば、欲しいからと安易に手に入れようと考えるのではなく、責任をもって子どもを養育するという覚悟が必要であるといえます。
親権の具体的な内容として、「財産管理権」と「身上監護権」が法律上定められています。
- 身上監護権
子どものしつけや身分行為の代理など、社会的に未熟な立場にある子どもを守る義務のことです。
子どもが身分法上の行為を行うにあたっての親の同意・代理権や親が子どもの居所を指定する権利などです。 - 財産管理権
子どもの財産を親権者が管理する義務です。
社会的に未熟な子どもが財産を自分で管理することは難しいため、親権者が代理人として管理を行います。
「親権」と呼ばれているのはこの2つを合わせたものですが、離婚の際に身上監護権のみを分離して「親権者」と「監護者」に分けることも可能であるとされています。
(2)一般的に、父親の親権獲得は難しいといわれる
離婚後は単独親権を選択し、どちらが親権者となるかで争いになった場合、父親の親権獲得は難しいといわれています。
令和3年度司法統計を見てみても、離婚調停では9割以上(19,915件中18,678件)で母親が親権を得ています。
親権者が母親の18,678件のうち、父親が監護権を得ているのもわずか37件であり、そもそも親権者と監護者を分けることが現在ではレアケースでもあります。
参考:令和3年 司法統計年報 第23表 「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件のうち「子の親権者の定め」をすべき件数 親権者別 全家庭裁判所|裁判所
このように離婚調停といった法的な場では、後述する「母性優先の原則」「継続性の原則」などにより、母親が親権獲得に有利なケースが多いのが実態です。
(3)父親が親権を得た場合、得られなかった場合、養育費はどうなる?
養育費は「子どもの監護や教育のために必要な費用」を指し、監護権を持たない親(一般的に子どもと離れて暮らす親)が監護権を持つ親に支払うものです。
離婚して親権を失っても、養育費の支払いは(父・母に関係なく)実親の義務ですので、親権を得た場合も失った場合も養育費を負担することになります。
(4)親権を得られなかった親は子どもに会えない?
では親権を持てなかった場合、子どもに会えなくなるのでしょうか。
逆に、親権を得た場合、親権を持たない方の親に子どもを会わせる必要はないのでしょうか。
たしかに、離婚後、元配偶者と子どもが会うことに難色を示す親権者もいるようです。
ですが、親権(監護権)を持たない実親が定期的・継続的に子どもと会ったり交流したりすることを親子交流(面会交流)といいます。
親子交流(面会交流)は、親だけでなく子の権利でもあります。
親子である以上、子が親に会いたいと思うのは自然のことであり、子どもの福祉にも寄与する点があるため、このような権利が認められているのです。
親権を持たない親が子どもに会うこと、また親権を持たない親に子どもを会わせることは親の義務でもあるのです。
この頻度や方法等については、離婚条件の交渉のなかで父母が「子の利益を最も優先して」定めることになっています(民法第766条1項)。
親同士で、親子交流(面会交流)の可否やその方法、回数、日時、場所について協議し、話合いで決めることが難しい場合には、裁判所が関与し、解決を検討することになります。
親権者はどうやって決める?
親権者はどうやって決めるのかについて見てみましょう。
基本的には実親同士の話合いで親権者を決めます。
話がまとまらない場合は、家庭裁判所で法的な手続きのもと親権者を決定することになります。
1.夫婦間で協議する
DVや虐待があるなど、話合いが困難な場合を除き、まずは話合いから始めます。その際、単独親権を選択する場合には親権を夫婦どちらが持つか、養育費をいくら支払うか、支払いの形式や頻度、親子交流(面会交流)の方法なども決めておきましょう。
話合いでまとまった場合には離婚協議書を作成し、その書面は公正証書にしておくことがおすすめです。
公正証書は、法務省に属する機関である公証役場で公証人により作成される公文書のことです。
公正証書を作成することにより、面会交流等の約束が離婚後に守られる安全性を高められるメリットがあります。
また、公正証書は、公文書として証明力・証拠力を備えた証書となるため、裁判になったときには証拠として用いることができます。
2. 離婚調停で話し合う
話合いがまとまらないとき、話合いの席に相手が出ようとしないときには、家庭裁判所で行われている「夫婦関係調整調停」を利用しましょう。
調停委員が互いの主張をまとめ、必要に応じて家庭裁判所調査官による調査を行いながら、より子どものために適切な親権者を選択し、双方が納得できるよう解決方法を提案します。
双方が納得する結論が出て、合意に至れば、離婚調停が成立します。
3. 離婚裁判
相手が離婚調停に出席しない場合や、合意に至らなかった場合は、そのまま離婚訴訟へ進み、親権の帰属についてもそのなかで争われることになります。
訴訟になってから改めて調査を行うことは少なく、調停段階で行われた調査官調査を利用し、親権者が定められます。
父親の親権交渉ポイント(1)監護実績等があるか

では、いよいよ具体的に父親の親権交渉ポイントを見ていきましょう。
ポイントの1つめは、監護実績等です。
(1)監護実績とは?
親権者決定の際に重視されるのは「監護者としてきめ細かな育児ができるかどうか」であって、生物学的な「母親」ではありません。
ですから『きめ細やかな監護養育』が父親の側で実現できているということが必要となります。
具体的には、たとえば子どもとスキンシップをとり、食事を食べさせ、お風呂にいれて、寝かしつけ、トイレや排泄物の始末をし、衣服を着せるという日常育児を父親が行っていることです。
実際に世話を焼く者(たとえば祖父母やヘルパーなど)に丸投げをしているようでは厳しいかも知れません。
子どもに対し、日常的な世話をするという形で愛情を示す必要があります。
(2)父親が親権者として認められやすいケース
「これまで継続的・安定的に子どもの監護養育を行なってきたか」
「離婚後の監護養育環境の見通しがついているか」
このような事情が大きな判断ポイントとなります。
また、親権者を決める際には、夫婦のいずれが「より子どものために」適切な親権者といえるかが重要です。
そのため、母親に次の問題が見受けられるケースでは、父親が親権交渉で有利になりやすい傾向があると言えます。
- 母親が虐待や育児放棄、家事放棄をしている
- 母親が子どもの監護養育環境よりも、不貞行為の相手との生活環境の安定を優先する傾向がある
ただし、母親の不倫が原因で離婚をすることになった場合であっても、不倫そのものは育児に直接の影響はないため、母親が不倫をしていたこと自体を理由に親権は取れません。
親権は配偶者間で奪い合うものではなく、あくまでも子どものための権利ですので、離婚の原因を作った方の親であっても、直ちに子どもの養育に不適格ということにはならないからです。
父親の親権交渉ポイント(2)「継続性の原則」や「兄弟姉妹不分離の原則」をクリアできるか
父親の親権交渉のポイントの2つめです。
親権者決定においては、「子どもの福祉」が最優先されるため、「継続性の原則」、「兄弟姉妹不分離の原則」が取られています。
以下、子どもの福祉に関わる論点として、「継続性の原則」、「兄弟姉妹不分離の原則」を説明します。
(1)「継続性の原則」とは?
子どもにとって、現在育ててくれている親と引き離されたり、引越しや転校などによって環境の変化を強いられたりすることは心理的にダメージが大きいものです。
離婚の話合いの時点では、すでに別居している夫婦も多く、その時点で子供がどちらと暮らしているかという点が重視されます。
もっとも、子どもと一緒に暮らしている点が重要とはいえ、相手方と一緒に住んでいる子供を無理やり連れ去るということをしてしまうと逆に不利な状況になります。
親権者の適格性として、人間としてのモラルや遵法意識に欠けていると判断されてしまうためです。
父親側がこのポイントをクリアするために、別居時に子どもを引き取り、その後父親が子供と安定して生活できているという実績があれば有利です。
このような実績がある場合には、裁判所や調停委員がそれを無理に変更して母親を親権者にするという判断を回避する可能性はかなり高いといえます。
(2)「兄弟姉妹不分離の原則」とは?
もし子供に兄弟姉妹がいるのであれば「兄弟姉妹不分離の原則」がポイントとして出てきます。
離婚し、1人ずつ公平に引き取ろうという考え方もあるのかもしれませんが、子どもの視点からすると兄弟姉妹と強い絆があることが普通です。
そのため、親権者の決定にあたり、兄弟姉妹が離れ離れにならないように同じ親権者が親権を持つことが子どもの福祉のために重要だと考えられるのです。
そこで、子供に兄弟姉妹がいる場合には、兄弟姉妹と一緒に引き取れるだけの環境を維持できていることは大事です。
複数の子どもの面倒を見るのはなかなか大変なことですが、たとえば父親の両親など継続的な協力が期待できる人物にサポートを受けている環境があることはプラスに働くと考えられます。
父親の親権交渉ポイント(3)子ども自身が父親との生活を望んでいるか
裁判所は子供に親を選ばせるようなことを基本的には避ける傾向があります。
裁判所は子供に親を選ばせるようなことを基本的には避ける傾向があります。
それは、子供に一方の親を選ばせるということが一方の親を捨て去ることを決断させることになってしまうため、非常に残酷であり、子供の心の傷になり得るからです。
ですが、子供が相当程度の年齢に至っている場合には、子ども自身の「どちらの親と一緒に暮らしたいか」という意向もある程度尊重されます。
目安としては、大体10歳以上の子どもには「どちらの親と一緒に暮らしたいか」の意向を聴取したうえで、子どもの心身の状態等を客観的に加味して尊重する傾向があるといえます。
あくまで、子どもの意見は参考意見であり、この意見が決め手となるものではありません。
子どもが15歳以上であれば、子ども自身の自我や価値観が相当程度に確立されてきているため、子どもの意思が尊重されるようです。
このポイントは、父親が日頃から子どもとうまくコミュニケーションを取っていて関係が良好であれば、そのような父親が親権を持つことが子どもの福祉に資すると考えられるためです。
日頃からの子どもとのかかわり方や関係性が問われています。
そのことを十分に理解し、子に親を選ばせるように仕向けたり、子に親権者を決定する責任を押し付けたりするようなことは絶対にやめましょう。
親権交渉でトラブル!失敗!こんなときはどうすればいい?
以下では、親権者決定前のトラブルや、親権を得られなかった場合の対処法について説明します。
(1)母親が勝手に子を連れて家を出て行ってしまった場合
父親側からのこのような相談は多く見られます。
子を取り戻す手段として、家庭裁判所に「子の引渡し請求」と「子の監護者の指定」を申し立てる方法があります。
母親が単独で子を監護する期間が長くなり、監護に問題がなければ、親権の判断は父親に不利に働きます。そこで、法的手続きは速やかに行う必要がありますので、具体的には弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
ここで気を付けなくてはならないのは、母親が子供を連れて家を出た場合に、たとえば殊更に「連れ去りだ」と相手を攻撃することや、無理やり子供を実力で取り返すようなことは避けましょう。これは、いざ離婚調停や裁判になったときに、その言動が「モラハラ」や暴力であると評価されるおそれがあるからです。
そうなれば、母親が子どもを連れて家を出てしまった事情についても「父親のDVから逃げた場合」という印象を調停委員や裁判官に与える可能性もあるのです。
これは当然、親権を取るうえで不利になります。
ですので、たとえ母親が勝手に子どもを連れて出て行った場合であっても、のちのち取り返しのつかない態度を取らないようご注意ください。
(2)母親が親権者に決定してしまった場合
- 親子交流(面会交流)を決める
親権を得られずに離婚後は子どもと離れて暮らさなければならなくなった場合も、実親には「親子交流(面会交流)」の権利義務が認められています。
離婚条件のなかで、交流のルールを定めておくとよいでしょう。 - 親権者の変更をする
いったん親権が母親に決定した場合であっても、離婚後に「親権者変更調停」で手続きすることにより、親権者の変更が認められる可能性があります。
離婚後に親権者を変更する場合、家庭裁判所による調停、または審判の手続を経る必要があります。
当事者間の合意のみでは変更は認められません。
子どもにとって本当に有益となる判断を下すため、必ず家庭裁判所調査官による家庭訪問や父母・子どもとの面会が行われることになります。
調査の結果によっては親権者変更が認められることになります。
ただし、家庭裁判所側は一度決めた親権を簡単に変更すべきではないと考えています。
ですから親権者の変更については慎重に判断されることになるため、変更はかなり難しいといえます。
【まとめ】父親が親権を獲得するためには、監護実績、子どもの生活の継続性などがポイント
一般的に、父親が離婚の際に親権を得るのは難しいケースが多いといえます。
ですが、日頃から子どもの面倒を見ていること、別居後は子どもを引き取っており離婚後も子どもに継続して安定した生活を送らせることができるだけの実績があること、子どもとの関係も良好であることといった事情が認められれば親権を得られる可能性は高まります。
これは、今までの子どもとの関わり方や関係性が問われる場面といえます。
いったん親権者が決まった場合、離婚後の親権者変更はなかなか認められません。ですので、親権を得るための交渉は極めて慎重に進める必要があるでしょう。